大学院の2年間は高い。でも、22歳で就職する2年間もタダではない

修士号の有利不利だけで決めない。22〜24歳を研究に置くか実務に置くか、研究室・お金・求人票から考える。

22歳の春。片方は新入社員、片方はM1になる

大学院に行くか就職するか。 この話になると、「修士の方が就職に有利か」「給料は上がるか」が前に出る。

もちろん大事だ。 でも、その二つだけで考えると、いちばん大きいものが抜ける。

22歳から24歳までの二年間そのものだ。

学部卒で就職すれば、その二年は給与と実務経験になる。 大学院へ進めば、研究、専門知識、学会発表、開発、修士論文の時間になる。

どちらも二年を使う。

大学院だけが「時間を失う」わけではない。 就職する側も、その二年で研究を続ける可能性を手放す。

僕は院進を、学歴を一段上げる話より22〜24歳を何に置くかという時間配分の話として考えた方が、かなり本質に近いと思っている。

研究テーマ、費用、卒業後の三つの視点で大学院進学を考える図解

研究テーマより、「火曜日の午後」を想像する

大学院の生活を決めるのは、大学名より研究室だ。

同じ専攻でも、教員の指導スタイル、ミーティング頻度、コアタイム、共同研究、学会発表、学生同士の距離感は違う。

研究テーマのタイトルが格好よくても、毎日の研究生活が合わなければ二年は長い。

僕なら研究室見学で、「何を研究していますか」だけではなく普通の火曜日の午後に何をしていますかと聞く。

何時ごろ来るのか。 週に何回ミーティングがあるのか。 先生とはどのくらい話すのか。 就活の時期に研究はどうなるのか。 修士の学生は、家に帰ってからも研究しているのか。

パンフレットには研究テーマが載る。 でも、自分が二年間暮らすのはテーマ名の中ではなく、その日常の中だ。

大学院の費用には、「働かなかった二年」まで乗ってくる

院進には授業料がかかる。 生活費もかかる。 そして学部卒で就職していれば得られたはずの給与もある。

これを全部厳密に計算するのは難しい。 会社ごとに初任給も昇給も違うし、大学院で得る経験に値札は付かない。

それでも、桁を見るだけで判断は変わる。

JASSOの授業料後払い制度では、2026年時点で授業料支援金が国公立で年額最大53万5,800円、私立で最大77万6,000円。生活費奨学金は月2万円または4万円を選べる。

ただし、原則として修了後に返還する貸与だ。 支援があることと、費用が消えることは同じではない。

僕なら、授業料・生活費・奨学金・学部卒就職なら得る給与を、雑でもいいから同じ紙に置く。

「院は高い」という感覚を、いったん数字へ戻すためだ。

「理系なら院」ではなく、求人票を10枚並べる

「理系は院に行った方が有利」とよく言われる。

でも“理系”は広すぎる。 研究開発、一部の設計・技術職では修士研究がかなり効くことがある。 一方で、学部卒から応募できる技術職も多い。

ここは平均論を聞くより、求人票を見る方が早い。

志望企業を10社ほど開く。 学部卒と修士卒で応募できる職種が変わるか。 研究テーマや専攻条件があるか。 修士へ進むことで、自分が本当にやりたい仕事の入口が増えるかを見る。

増えるなら、それはかなり強い院進理由だ。

逆に、やりたい仕事へ学部卒で普通に応募でき、研究を二年続けたい気持ちも薄いなら、「周りも院だから」で進む理由は弱い。

僕は「修士の方が有利らしい」より、「この3職種は修士に行った方が近づける」の方を信用する。

周囲の院進率は、答えではない。でも空気にはなる

院進率が高い大学にいると、大学院は“次の学年”のように見えてくる。

友人が受験勉強を始める。 研究室の先輩が修士へ行く。 就職する方が少数派になる。

この空気は無視できない。

だから一度、周囲を消して考える。

友人が全員就職するとしても、自分は研究を続けたいか。 友人が全員院へ行くとしても、自分は早く働きたいか。

電通大のように7割が院へ進む大学では、この問いはかなり効く。 多数派に逆らえ、という話ではない。 多数派を、自分の理由と勘違いしないための確認だ。

迷ったら、三枚の紙だけ作る

考え続けているのに決まらないときは、頭の中にある「院の方がいい気がする」を外へ出す。

一枚目は、研究室の一日。 修士の学生に、時間、ミーティング、教員との距離、就活との両立を聞く。

二枚目は、二年間のお金。 授業料、生活費、使える支援、学部卒で働いた場合の収入をざっくり置く。

三枚目は、志望企業10社の募集条件。 修士へ行くことで、やりたい職種への入口が増えるかを見る。

この三枚が埋まったら、もう「院卒は有利らしい」という一般論はかなりどうでもよくなる。

自分の研究室、自分の家計、自分の求人票の話になるからだ。

修士号を買うのではない。22〜24歳をどこへ置くか決める

大学院の二年間は高い。 時間もかかる。

でも、22歳で就職する二年間もタダではない。 その時間を仕事へ置く代わりに、研究に置く可能性を手放す。

僕なら最後に、「修士号が欲しいか」ではなくこう聞く。

24歳になったとき、二年間の研究経験と二年間の実務経験、どちらを持っていたいか。

大学院は、肩書きを二文字増やす場所ではない。 22歳から24歳までを、どこに預けるかという選択だ。

参考資料 2
  1. 2026年度在学者用貸与奨学金案内(大学院) — 日本学生支援機構(JASSO)(確認 2026/8/30)
  2. 授業料後払い制度の貸与額 — 日本学生支援機構(JASSO)(確認 2026/8/30)
記事一覧へ