電通大と農工大、「専門を後で決められる」のは実は両方だった

農工大知能情報も2年次に2コースへ分かれ、研究室はコース横断。違うのは「自由を大学のどこに置くか」だった。

「電通大は後決め、農工大は先決め」で比べると、農工大を見誤る

電通大と東京農工大を比べるとき、最初はかなりきれいな対比が作れる。電通大はⅠ・Ⅱ・Ⅲ類で入り、あとから専門教育プログラムを選ぶ。農工大は学科単位で入る。なら、電通大は後決め型、農工大は先決め型なのだろう。

僕もそう考えていた。

ところが農工大の知能情報システム工学科をカリキュラムまで読むと、その対比は崩れる。学部2年次から「数理情報工学コース」と「電子情報工学コース」に分かれ、4年次の研究室配属は公式にコースによらない配属とされているからだ。

農工大の情報系も、入学した瞬間から一本道ではない。

電通大は3類から15プログラムへ、東京農工大知能情報システム工学科は2年次に2コースへ進み研究室はコース横断で選べる構造を示す図

この事実を入れると、比較したいものが変わる。「どちらが後から選べるか」ではなく、二校は柔軟性をどこに残しているのかを見る方が実態に近い。

電通大は横に広げ、農工大知能情報は内部に抱える

電通大の2026年度一般選抜では、Ⅰ類、Ⅱ類、Ⅲ類のいずれかで入学し、2年次後学期から各類に五つずつある専門教育プログラムへ進む。

たとえばⅠ類にはメディア情報学、経営・社会情報学、情報数理工学、コンピュータサイエンス、デザイン思考・データサイエンスがある。Ⅱ類にはセキュリティ、情報通信、電子情報、計測・制御、先端ロボティクスが並ぶ。

農工大の知能情報システム工学科は、情報工学と電気電子工学を一つの学科の中に広く持つ。1年次に数学、情報、電気電子、プログラミング、回路などを学び、2年次から数理情報工学と電子情報工学の二コースへ分かれる。

数理情報工学コースにはOS、情報セキュリティ、計算機ネットワーク、CGなどがあり、電子情報工学コースには電子回路、電子デバイス、電磁波、通信などが置かれる。人工知能、パターン認識・機械学習、ヒューマンインタフェース、計測・制御などは共通領域として残る。

同じ「後から選べる」でも形が違う。

電通大は、複数の専門教育プログラムを横に並べることで進路の幅を見せる。農工大知能情報は、一つの大きな学科の内部に二つの方向を抱え、その後も研究室で交差できるようにしている。

自由の量を一つの数字にするより、自由が置かれている階層を見た方が分かりやすい。

コースを選んだあと、線路は本当に分かれるのか

農工大知能情報で面白いのは、2年次に数理情報と電子情報へ分かれたあとも、4年次の卒業研究ではコースによらず研究室を選ぶ設計になっていることだ。

「コースを選ぶ」と聞けば、その先の研究室まで線路が二つに分かれるように想像しやすい。実際には、授業では二方向に専門を深めながら、研究室の選択範囲はコースで閉じていない。

もちろん、希望した研究室へ必ず入れるという意味ではない。公式ページから確認できるのは、研究室選択の範囲をコースで限定していないという制度設計までだ。

それでも、「情報工学科」という一語から想像する姿よりはかなり広い。農工大知能情報は、情報と電気電子をいったん二方向へ深め、研究ではまた横断できる学科として見た方が近い。

ここまで分かると、電通大の類制も違って見えてくる。

電通大の類は「何も決めなくていい制度」ではない

農工大にも後決めの余地があるからといって、電通大の類制の意味が消えるわけではない。電通大では、情報の内部だけでなく、通信、セキュリティ、電子、制御、ロボティクスなどが別々の専門教育プログラムとして横並びになっている。

入学時にAIへ興味があった学生が、2年後には無線通信へ寄りたくなる。ロボットに惹かれていた学生が、制御の数理へ興味を移す。電子回路からセキュリティへ目が向く。そうした揺れを、複数プログラムの一覧として意識しやすい。

ただし、15プログラムのどこへでも無制限に進めるわけではない。各類に五つずつという範囲がある。

だから僕は、電通大の類を「専門を決めなくていい制度」とは読まない。どの五つの扉を2年後まで残すかを、受験時に選ぶ制度と考える。

Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ類の選び方も、この見方なら「どの類が上か」ではなく、「興味が変わったときに何を残したいか」という話になる。

第一志望を消すと、大学の形が見えてくる

情報系で第一志望だけを並べると、二校の選択肢はかなり重なる。AI、機械学習、ネットワーク、通信、電子デバイス、制御。どちらにも関係する領域が多いので、第一志望だけでは決め手が出ないことがある。

そんなとき、僕なら一度だけ第一志望を消して考える。

AIが思ったより好きではなかったら、次は何をやりたいか。通信や電子、ロボットへ動くのか。それとも生命、化学、材料へ行きたくなるのか。

第二志望が情報・通信・電子・制御の近辺を動くなら、電通大で近い専門が密集していることは強みになる。一方、農工大工学部には生命工学、生体医用システム工学、応用化学、化学物理工学があり、大学全体では農学部も持つ。

ここで注意したいのは、大学にその分野があることと、自分が制度上そこへ移れることは別だという点だ。農工大に生命工学があるから、知能情報へ入ったあと自由に学科を移れるという意味ではない。電通大に15プログラムがあるから、どこへでも移れるわけでもない。

「選択肢が多い」という言葉だけでは足りない。大学に存在する選択肢、自分の類・学科から進める選択肢、研究室で横断できる選択肢は分けて考えた方がいい。

最寄駅の数分差より、毎朝乗る路線を見る

電通大は調布駅から徒歩5分。農工大工学部の小金井キャンパスは、東小金井駅南口から約8分、nonowa口から約6分と案内されている。駅から歩く時間だけなら、大きな差には見えない。

けれど、調布は京王線、東小金井は中央線だ。学生は「東京都内」という抽象的な場所へ通うのではなく、毎朝どちらかの路線へ乗る。

候補が二校まで絞れたら、僕ならオープンキャンパスの昼ではなく、平日1限に間に合う時刻で自宅からの経路を出す。片道15分の差でも、週5日が4年続き、院まで進めば6年になる。

通学時間は、毎朝引かれる固定費になる。

院進率は勝敗より、時間軸を伸ばすために使う

電通大では情報理工学域・学部卒業生のおよそ7割が大学院へ進む。農工大知能情報システム工学科も、公式案内で卒業後に大学院へ進む学生が多いことを示している。

この種の率は、対象年度や分母を揃えずに一桁の差で競わせるとすぐに乱れる。だから「院進率が高い方が上」という読みにはあまり意味を感じない。

二校とも、受験時点から4年後だけでなく6年後まで仮置きして研究室を見る価値がある。このくらいの使い方で十分に大きな情報になる。

研究室を三つ拾うなら、「卒研の一年を過ごせるか」だけでなく、「このテーマを修士でも続けたいか」まで考えてみる。大学名の比較が、そこでようやく研究生活の比較に変わる。

就職先の会社名が重なるなら、無理に勝敗を作らない

両校の公開就職先には、IT、通信、電機、自動車、製造業の大手がかなり重なる。同じ会社名が並ぶと、どちらが「就職に強いか」を決めたくなるが、学生数も専攻構成も違い、会社名だけでは職種も分からない。

会社名リストだけで大学を格付けするには、情報が粗い。

就職を重視するなら、先に行きたい職種を三つ置き、その職種につながる研究室を探す。そのあとで、研究室や専攻の出口として企業を見る。順番を逆にした方が、知名度の高い会社名に引っ張られにくい。

二校の差は「自由かどうか」ではなくなった

農工大の知能情報システム工学科にも2年次のコース選択があり、研究室はコースを横断して選べる。ここまで確認すると、「電通大は後から選べる、農工大は最初から固定」という比較は使えない。

代わりに残るのは、興味が変わったとき、その変化をどこで受け止める設計になっているかという違いだ。

電通大なら、類の中に並ぶ複数の専門教育プログラム。農工大知能情報なら、統合された学科の中の二コースと、コースをまたぐ研究室。さらに大学全体へ目を広げれば、農工大には生命・化学・農学という別の分野もある。ただし、大学に存在することと自由に移れることは同じではない。

似ている二校だからこそ、「自由」「不自由」の二択にすると差が消える。

見るべきなのは、自由の置き場所だ。

参考資料 10
  1. 学ぶ — 電気通信大学(確認 2026/8/30)
  2. 2026年4月入学 一般選抜の概要 — 電気通信大学(確認 2026/8/31)
  3. 進路状況 — 電気通信大学(確認 2026/8/30)
  4. 主な就職先 — 電気通信大学(確認 2026/8/31)
  5. 電通大ってどんな大学? — 電気通信大学(確認 2026/8/31)
  6. 知能情報システム工学科 カリキュラム — 東京農工大学(確認 2026/8/31)
  7. 知能情報システム工学科 Q&A — 東京農工大学(確認 2026/8/31)
  8. 機械システム工学科 — 東京農工大学(確認 2026/8/30)
  9. 進路状況 — 東京農工大学(確認 2026/8/30)
  10. 交通・キャンパスマップ — 東京農工大学(確認 2026/8/31)
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