電通大と理科大、89.5万円より先に「その就職実績は誰のものか」を見たい
2026年新設の創域情報学部にはまだ卒業生がいない。前身学科の就職データと学費差を混ぜずに比較する。
学歴研究会偏差値表の外側を見る大学観察者89万5,040円より先に、就職欄の注記で止まった
電通大と東京理科大を比べると、学費差は強い数字になる。2026年度入学者で、電通大の昼間学部は入学料28万2,000円、年間授業料64万2,960円。初年度は92万4,960円だ。
理科大の工学部情報工学科と創域情報学部情報理工学科は、入学金30万円、年間授業料119万円、年間教育充実費33万円。この三項目で182万円になる。同じ費目で差を取ると、89万5,040円。
無視しにくい差だ。
ところが理科大の創域情報学部情報理工学科を見ていて、僕は学費表より先に就職欄で止まった。2026年4月に始まった新学部なのに、NTTデータ、NEC、富士通、野村総合研究所、日立製作所などの会社名が並んでいる。
2026年8月時点で、この学部の卒業生はまだいない。
注記を読むと、掲載されているのは創域理工学部の情報計算科学科と経営システム工学科の2023年3月〜2025年3月卒業生の進路だった。会社名は正しい。ただし、新しい創域情報学部の卒業実績ではない。
大学比較では、数字そのものより「誰の数字か」を外す方が怖い。
公式の数字でも、別の世代の履歴書は混ぜられる
創域情報学部情報理工学科は2026年開設なので、現在の学生が新カリキュラムを4年間受けたあとの進路実績はまだ存在しない。現時点で確認できるのは、前身となる分野の卒業生がどこへ進んだかまでだ。
これは新学部の弱点を指摘したいわけではない。新設である以上、実績がまだないのは当然だからだ。
むしろ厄介なのは、公式ページに会社名が並んでいると、読み手が現在の学部自身の実績だと受け取りやすいことだと思う。学校名を揃えただけでは比較条件は揃わない。学科、キャンパス、卒業した世代まで合わせないと、別の学生集団を一つの数字として扱ってしまう。
新設学部を見るなら、会社名より注記を先に読む。その癖は持っておきたい。
「理科大の情報系」は一つではない
そもそも、電通大と「理科大の情報系」を比べるという言い方からして粗い。
理科大には葛飾キャンパスの工学部情報工学科があり、2026年には野田キャンパスに創域情報学部情報理工学科が始まった。さらに創域理工学部の電気電子情報工学科にも、情報通信へつながる領域がある。
情報工学を中心に見たいのか、データ科学や社会システムまで含む新学部を見たいのか、電気電子と通信の境目を見たいのか。選ぶ入口によって授業、研究室、キャンパスが変わる。
「東京理科大学」という大学名は一つでも、学生が4年間歩く道は一つではない。
この違いを曖昧にしたまま学費や就職を比べると、数字だけ精密で比較対象がぼやける。
創域情報学部も、2年次にもう一度分かれる
電通大はⅠ・Ⅱ・Ⅲ類で入り、2年次後学期から専門教育プログラムへ進む。そのため「電通大は後から専門を決められる」という特徴が目立ちやすい。
しかし、理科大の創域情報学部情報理工学科も2年次から2系4コースに分かれる。C系にはコンピュータ科学コースと知能メディアコース、D系にはデータ科学コースと社会システムコースがある。
つまり、「電通大は後決め、理科大は出願時に固定」という対比も、そのままでは使えない。
違うのは、後から分かれるかどうかではなく、分かれる前に何を一つの入口として抱えているかだ。電通大は情報、通信、セキュリティ、電子、制御、ロボティクスなどを情報理工学域の複数プログラムとして並べる。創域情報学部は「情報」という学部の中で、コンピューティングとデータ統合の方向へ整理する。
どちらも後から細くなる。細くなる前の幅と向きが違う。
89万5,040円は、全員の実負担差ではない
比較条件を揃えたところで、学費の89万5,040円へ戻る。この差は2026年度の学校費用として実在し、僕は小さいとは思わない。
ただし、これは定価の差だ。
理科大には大学独自の給付型奨学金があり、受験生を対象に40万〜80万円を給付する制度もある。高等教育の修学支援新制度の対象者には、入学金や授業料等の減免もある。
したがって、「理科大を選ぶ全員が電通大より89万5,040円多く負担する」とは言えない。家計に実際に効く差は、自分が利用できる給付や減免を引いたあとに残る。
反証を入れても、定価差そのものは消えない。むしろ「国立だから安い、私立だから高い」という雑な理解から、自分の家計で何円違うのかという比較に変えられる。
僕なら、まず定価を置く。そのあと、自分が対象になり得る支援を引く。
そこで初めて、89万5,040円が自分の数字になる。
大学の値札は、学費表だけには載っていない
初年度の差は目立つが、大学は一年で終わらない。二年次以降にも授業料や教育充実費は続き、自宅から通えるか、一人暮らしになるかで総額は大きく変わる。
ここでキャンパスの違いが効いてくる。理科大の工学部情報工学科は葛飾、創域情報学部情報理工学科は野田で、運河駅から徒歩5分と案内されている。電通大は調布駅から徒歩5分だ。
「理科大だから都心」という括りはできない。同じ大学の情報系でも、どの学科を選ぶかは、毎朝どこへ向かうかを選ぶことでもある。
家から葛飾なら通えるが野田なら一人暮らしになる人がいれば、授業料の差より住居費の方が大きくなる可能性さえある。
学費表は値札の一部しか持っていない。
豪華な会社名ほど、分母と世代を確認したい
電通大の公開就職先にもNTTドコモ、日立製作所、NEC、富士通、NRI、三菱電機などが並ぶ。理科大の既存学科や前身学科にも似た企業が多い。
会社名だけを見れば、どちらも強そうに見える。けれど学生数は違い、専攻構成も違い、学部卒と修士修了も混ざる。創域情報学部のような新設学部では、そもそも卒業した世代が違う。
ここから「どちらが就職に強いか」を一発で決めるのは難しい。
行きたい職種を三つ決め、その職種につながる研究室を探す。その研究室や専攻の学生がどこへ進んでいるかを見る。会社名を確認するのはそのあとでいい。
企業一覧は大学の戦闘力表ではなく、専門から産業への出口として読んだ方が使いやすい。
院進率も、分母を揃えないまま競わせない
電通大では情報理工学域・学部卒業生のおよそ7割が大学院へ進む。理科大は全学や複数学部をまとめた院進率を公表している。
数字を横に置くと比べたくなるが、情報理工学域だけの率と、複数の理工系学部をまとめた率では分母が違う。小数点まで並べても、比較が精密になったわけではない。
この段階で読めるのは、どちらも理工系では大学院進学が珍しい進路ではないという程度で十分だと思う。研究生活まで知りたいなら、候補研究室の修士進学状況へ降りた方が近い。
数字は、揃えられるところまで揃えて使う。
両方受かったら、四つの画面を並べる
僕なら、まず理科大側で比較する学科を一つに固定する。工学部情報工学科なのか、創域情報学部情報理工学科なのかを曖昧にしない。
その学科のキャンパスまで、平日朝の経路を出す。両校から行きたい研究室を三つずつ選ぶ。さらに、自分に使える奨学金や減免を引いた4年間の概算を置く。
創域情報学部を候補にするなら、就職欄には「この学部自身の卒業生はまだいない」と一行メモしておく。
そこまで揃えてから、89万5,040円を見る。
理科大側に、その差を払ってでも行きたい学科、研究室、環境があるなら、費用差には理由がつく。支援制度で実負担が縮む人なら結論も変わる。
逆に、大学名の印象と「就職先が強そう」という感覚だけで迷っているなら、僕は電通大との費用差をかなり重く見る。
ただ、89万5,040円を比べる前に一度だけ就職欄の注記へ戻りたい。
その会社名は、本当に今選ぼうとしている学部の卒業生のものだろうか。
参考資料 12
- 学ぶ — 電気通信大学(確認 2026/8/31)
- 進路状況 — 電気通信大学(確認 2026/8/31)
- 入学料(入学金)・授業料一覧 — 電気通信大学(確認 2026/8/31)
- 電通大ってどんな大学? — 電気通信大学(確認 2026/8/31)
- 工学部 情報工学科 — 東京理科大学(確認 2026/8/31)
- 創域情報学部 情報理工学科 — 東京理科大学(確認 2026/8/31)
- 2026年4月、新学部・新学科開設 — 東京理科大学(確認 2026/8/31)
- 創域理工学部 電気電子情報工学科 — 東京理科大学(確認 2026/8/31)
- 2027年度 総合型選抜 募集要項(2026年度初年度納付金を掲載) — 東京理科大学(確認 2026/8/31)
- 奨学金制度 — 東京理科大学(確認 2026/8/31)
- 2026年度入学者 高等教育の修学支援新制度における授業料等減免 — 東京理科大学(確認 2026/8/31)
- 就職・キャリア関連データ — 東京理科大学(確認 2026/8/31)